国内携帯3社「キャリアメール持ち運び」に対応、メールやり取り以外にも活きる「意外なメリット」とは
国内MNO(移動体通信事業者)の3社が、自社ISPサービスで提供するメールアカウント(キャリアメール)を他社に乗り換え後も使えるようにする「キャリアメール持ち運び制度」に相次いで対応をスタートさせました。
NTTドコモが16日に「ドコモメール持ち運び」の提供をスタートしたことを皮切りに、au(KDDI)でも20日から「auメール持ち運び」を、ソフトバンクも自社ブランドとして提供するソフトバンク・ワイモバイルを対象に「メールアドレス持ち運びサービス」を提供開始し、MNOとして現在キャリアメールを提供している大手3社が出そろいました。今回は、キャリアメール持ち運びの実現に至った背景と、今の時代におけるキャリアメールの存在意義についても改めて見ていきます。
【目次】
キャリアメールの持ち運びで競争促進を図る総務省
ドコモ、au、ソフトバンク各社のキャリアメール持ち運び制度の違い
キャリアメール持ち運びを行う際の注意点
現代における「キャリアメール」の役割と存在意義
おわりに
キャリアメールの持ち運びで競争促進を図る総務省
以前、「総務省のアクション・プランに盛り込まれた『キャリアメール持ち運び制度』とは?」の記事でも紹介した通り、総務省は通信事業者間の公正な競争を促進する観点から各社に対し「電話番号同様にキャリアメールを持ち運べるようにしてほしい」という働きかけを行っており、その要請に各社が応えた形となります。
総務省が上記のアクション・プランの検討にあたって実施したアンケートでは、キャリアメールアドレスから「週1回以上送信を行っているユーザー」の割合は37%に上り、「全く利用していない」の32%を上回っており一定のニーズがあるとされています。また、この調査では2割のユーザーが携帯電話会社の乗り換えを考えていない理由に「メールアドレスが変わる」ことを挙げており、スイッチングコストの低減の観点からもメールアドレスの持ち運び対応が公正な競争を促進すると考えられています。
一方で、電話番号の持ち運び(ナンバーポータビリティー制度、MNP)対応は2006年に既に開始されていたにもかかわらず、メールアドレスの持ち運びがこれまで提供されてこなかった背景には、電話回線と違いメールアカウントの情報は提供元キャリアが引き続き管理し続ける必要があることから、自社回線を解約した後も自社ISPへのアクセスをできるようにするためのシステム開発のコストや、解約ユーザーの個人情報を引き続き保有することによる個人情報保護体制の構築などキャリア側の負担が大きいことがありました。
加えて、3G時代からの契約等で通信方式が異なる旧プランを使っているユーザーへの対応や、他社の通信事業を買収したことで管理するドメインが膨大になる、等キャリア固有の事情や制約もありました。実際に、ドコモ・ソフトバンクとauとでは3G以前の通信方式が異なっていたり、ソフトバンクでは旧J-PHONE、vodafone、ウィルコム等事業を引き継いだキャリアのドメインを多く抱えていたりと、メール周りの課題は少なからず存在する状況でありました。
ドコモ、au、ソフトバンク各社のキャリアメール持ち運び制度の違い
こうした各社での対応を経て、12月に3社が揃い踏みしたキャリアメール持ち運び制度。それぞれのキャリアにおける取り扱いについて確認します。
キャリア | docomo | au | ソフトバンク(SoftBank/Y!mobile) |
料金 | 月額330円(初月無料) | 月額330円/1アドレス(初月無料) | 年額3,300円/1アドレス (月額制は22年8月頃導入予定) |
対象 | 12月16日以降に解約したドコモメール(@docomo.ne.jp)ユーザー | 12月2日以降に解約した@ezweb.ne.jp及び@au.comユーザー | SoftBank、Y!mobileのキャリアメール及び旧事業者より引き継いだキャリアメール(vodafone、J-PHONE、ディズニー・モバイル・オン・ソフトバンク、イーモバイル、DDIポケット、ウィルコム)ユーザー |
条件 | 解約・MNP/31日以内の申込が必要 ahamoへのプラン変更/プラン変更と同時に申し込みが必要(後日不可) ※12/16時点でahamoに移行済のユーザーは対象外 |
31日以内の申込 が必要 |
31日以内の申込が必要 Y! mobileメール以外はアドレス変更不可(22年8月以降対応予定) |
異なる点として、ドコモ・auは月額制で初月無料、ソフトバンクは年間での料金体系(月額換算で275円)となっています。また遡っての持ち運びへの対応やキャリアメール提供の無い料金プラン(ahamo、povo、LINEMO)への変更時の対応が一部キャリアで異なっているという具合です。
キャリアメール持ち運び時の注意点
キャリアメールアプリが引継ぎ先で利用できない場合がある
スマートフォンの「キャリアメールアプリ」で送受信を行っている場合、引継ぎにあたり端末を変更しているとOSのバージョン等の問題によりキャリアメールアプリが利用できない可能性があります。その場合は、Gmail等IMAPに対応したメールアプリで設定を行った上で利用する必要があります。
ドコモでは1つのメールアドレスしか引き継げない
FOMA時代に提供していた「2in1」(1台に2つの電話番号・キャリアアドレスを持てるオプション)ユーザーや、iモードとspモードの両方を契約(重畳契約)し2つのメールアドレスを持っている場合には、何れか片方のアドレスしか引き継ぐことが出来ません。2iそのため、予め引き継がれるアドレスを確認し、必要に応じて入れ替えや登録先サービスにおけるアドレス変更等を行っておく必要があります。
対応している支払方法が異なる、変更になる場合がある
メールアドレス持ち運びのオプション料金の支払い方法は、各社によって異なります。
キャリア | docomo | au | ソフトバンク |
支払い方法 | クレジットカード支払い | <~22年5月>au回線利用時の請求先 <22年6月以降>auかんたん決済(au PAY、クレジットカード等) |
クレジットカード支払い |
auについては22年の6月から「auかんたん決済」による請求に移行するため、回線利用時に口座振替などで支払っていた場合には、クレジットカードやau PAYカード等有効な支払方法を準備しておく必要があります。
バックアップが必要な場合、移行前に取得しておく
バックアップファイルの形式が異なる、外部記憶媒体(SDカードなど)に対応していないなど、移行先端末の環境が今使っているものと異なる場合、移行後のバックアップ取得に失敗する可能性があるため、事前にバックアップを取っておくのが安全です。また、一部キャリアではメールの「保護設定(メール1通単位で自動削除、一括削除の対象としない指定)」を行っている場合移行先の環境で保護の解除が出来ないため、移行前に操作を行うことをアナウンスしています。
現代における「キャリアメール」の役割と存在意義
先に述べた通り、3割以上のユーザーが「週に1回以上送信」を行っているという調査結果があることから、現代においてもキャリアメールはコミュニケーション用途として一定のニーズがあることが窺えます。
ただ、個人間のコミュニケーション以上にスイッチングコストを発生させ得る要素として考えられるのは「WebサービスのIDとしてキャリアメールアドレスを利用しているケース」です。
以前は「アドレス帳」等と呼称されていた連絡先リスト等に入っている個人間のやり取りであれば、殆どの場合変更の旨をメールで通知するので済みます。しかしながらこれがWebサービスになると「サイトにアクセス」→「ID・パスワードでログイン」→「変更したアドレスを登録する」という手続きが1件ごとに発生し、「パスワードを忘れていた」等で再発行の手続きを行ったりするとなるとさらに手間が増えてしまいます。こうした手間を考えれば、有効なアドレスとして機能しているキャリアメールのアドレスが変わることは確かにスイッチングコストになり得ます。
また、一部のファンクラブサイトや会員限定でコンテンツなどを展開するWebサービスにおいては、複数アカウントによる転売目的の不正購入や、コンテンツの厳正な取り扱いを求める観点からキャリアメールでの登録を必須としているものもあり、仕組み上キャリアメールアドレスを手放せないケースも存在します。冒頭に紹介した以前の記事でも取り上げた通り、キャリアメールアドレスは「本人同一性の高い連絡先」としての認識が未だに高く、信頼できるアカウント情報として機能している側面もあります。
おわりに
今回は、ドコモ・au・ソフトバンクの3社で相次いで開始した「キャリアメール持ち運び制度」の内容と注意点、そして現代でキャリアメールが使われるシーンについて改めて見てみました。
ユーザー側にとっても、乗り換え時には変わることが前提だったキャリアメールアドレスを持ち運べるとなると、そのニーズや利便性を個々人が見直す動きが出てきそうです。キャリアメールに限らず、「メールアドレス」を保有する目的やメリットが再定義されることは、メールマーケティングを考える上でも少なからず変化がもたらされることになるかもしれません。
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