iOSのメールアプリで開封率が取れない?再確認したいメールマーケティングの目的とKPI
米Appleは9月21日(日本時間)、自社製スマートフォン「iPhone」をはじめとした自社モバイル端末向けに提供する基本ソフトである「iOS」の最新バージョン「iOS15」を公開しました。
今回のメジャーアップデートで追加された機能の一つに「メールプライバシーの保護」があります。本機能では「IPアドレスのマスク」により、iPhone標準のメーラーを通じたメール反応を他のWebアクティビティと紐づけることが出来なくなるほか、HTMLメールをいつ開封したかが送信者にわからなくなることが大きな変更点となります。
これまで、メールマーケティングの中で重要視すべき指標の1つとして捉えられてきた「開封率」。iPhoneのシェアが高い日本において、その有用性の低下をもたらす仕様変更となりますが、送信者側はどのように対処すべきなのでしょうか。メールマーケティングの役割や目的を今一度見直しながらご紹介いたします。
目次
日本におけるiOSのシェアは「6割超」
開封率を取得する仕組み
iOSユーザーの開封カウント無効化のインパクト
開封率に拘り過ぎない、という考え方
おわりに
日本におけるiOSのシェアは「6割超」
日本におけるスマートフォンOS別シェア
出典:日本政府「デジタル市場競争会議」ワーキンググループ公開資料
日本国内では2008年にソフトバンクが自社ラインナップとして「iPhone3G」の取り扱いが始まったことを皮切りに、現在では大手MNO4社(NTTドコモ、au、ソフトバンク、楽天モバイル)及びそのサブブランドでの取り扱いに加えSIMフリー版の提供が行われているiPhoneシリーズ。先んじて販売が始まった欧米圏と比較しても国内シェアが高いことで知られ、最新の調査では国内のスマートフォン市場に占めるOSのシェアで67.3%に上り「3人に2人はiPhone」という普及率を見せています。
背景には、GSM通信方式に対応していなかった為初代iPhoneの投入が見送られた日本においてはiPhoneより先に音楽プレーヤーである「iPod touch」が発売され、フルスクリーン型のモバイルデバイスへの抵抗感が少なかったこと、それ以前のiPodシリーズを含めiTunes上の音楽データ資産をそのまま活かせる点が評価されたことなどが挙げられます。
加えて、シェアを争うAndroidはiPhoneから遅れること1年、2009年に国内販売がスタート。既に携帯端末購入時の「2年縛り」が常態化していた日本においては、このタイムラグの間にアーリーアダプター層以外のユーザーも続々と買い替えの時期を迎え、スマートフォン=iPhoneへのスイッチングが進んだことも要因と考えられます。
開封率を取得する仕組み
そもそもなぜ、iOSの仕様変更が開封率に影響を及ぼすのでしょうか。そのからくりは「開封率取得の仕組み」にあります。
今回のiOSの仕様変更では、この「開封時のアクセス」が、ユーザーがメールを開いたタイミングではなく受信トレイにメールが到着した後にiOS側で自動的に行われるようになります。即ち、実際にユーザーが見たのか見ていないのかに関わらず「開封された」扱いになるため、正確性に欠けるデータになってしまうという懸念点があります。
なりすましメールとはその名の通り、信頼性のある第三者になりすましたうえでメールを送り、真正な目的や依頼を装って文面を作成したうえでフィッシングサイト等のURLへの誘導を行うことで、金銭や個人情報の詐取を試みるメールのことです。メールの文面は自由に作成できるわけですから、技術的には誰もが他社のメールを模倣した文面を作成することが可能です。
iOSユーザーの開封カウント無効化のインパクト
先述した通り、iOSは国内で6割超のシェアを有するのに加え、今回のアップデートはiPhone 6(2014年発売)以降及びiPhone SE(2016年発売の第1世代を含む)に対応しており、現在国内で稼働しているiPhoneのほぼすべてが対象となる見込みです。
もちろん、本機能のオン・オフは個別に設定が出来ますが、「メールのプライバシーを保護するか?」というダイアログで確認を促されることから実際には多くのユーザーが本機能をオンにすることが見込まれます。ユーザーによっては、最新バージョンへのOSアップデートを一定期間控え様子見をするケースも考えられますが、Appleに限らずOSアップデートにはセキュリティ対策やバグの修正などシステム運用上必須となる更新項目も含まれることから、本アップデートに対応するiPhoneを利用している以上、遅かれ早かれアップデートを適用することにはなります。
このように見ると、ことiPhoneユーザー向けの配信においては一定程度の影響が見込まれますが、メール運用全体で見るとどうでしょうか。
前提として、開封率は画像アクセスを利用して取得している為、コンテンツ内に画像を含められないテキストメールや、画像ファイルを同梱形式(添付型)で送っている場合にはそもそもアクセスが発生しないため、仕組み上開封率の計測は不可能となります。また、メールクライアントによってはフィッシング対策などでHTMLメール内のリンクを読み込ませない設定になっている場合があるため「読まれているけど開封としてカウントされない」というケースや、自動的にアクセスを行いフィッシングサイトで無いかを確認するセキュリティソフトも存在します。開封率はいわばメール運用の「入り口」としてその先の成果をも司る指標として重要視されてきましたが、一方で取得できる条件や環境には一定の制約があるため、必ずしも正確性が担保されていないというのも事実ではありました。
開封率に拘り過ぎない、という考え方
このように、ある程度の不確実性を持った開封率という指標に拘り過ぎず、これからはむしろ計測可能なほかの指標(クリック率や、遷移先でのコンバージョン等)を意識して運用を行っていくことの方が重要、という考え方があります。
企業向けにメールマガジンのコンサルティングを手掛ける、株式会社ライトアップの米澤信弘氏は、先月開催した当社のメールマーケティングセミナーで本機能による影響について「今後の動向を注視する必要がある」としつつ、次のように述べています。
― 本来、メールの目的はWebサイトへの遷移(=クリック)やユーザー行動の喚起(=コンバージョン)といった部分にあるはずで、開封率は数ある指標の一部に過ぎない。ユーザー視点で反応を高めるためクリエイティブを工夫し続けるという基本は、これからも変わらないのではないか。
おわりに
今回は、iOS15に搭載された「メールセキュリティ保護機能」における、開封率計測への影響についてご紹介しました。
iOSのシェアが多い日本においては決して小さくはない影響が出ると見られていますが、一方でこれを機にメールマーケティングにおける本来の目的やKPIの価値が見直され、より有意義なコミュニケーションにつながる一助となる期待もあります。Appleに限らず、ユーザーのプライバシーを保護する方向性は他のプラットフォーマーも追従すると考えられ、またそれに対して送信側が打てる手立ては限られることから、今後の動向を注視しつつもコミュニケーションの本質を見失わないよう、心掛けてゆく必要があります。
※iPhoneは、米国および他の国々で登録されたApple Inc.の商標です。
iPhoneの商標は、アイホン株式会社のライセンスにもとづき使用されています。
※「Android」は、Google LLC の商標または登録商標です。
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